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アンティーク

ロンドンタクシーとは?What’s LONDON TAXI”Black Cab”

ロンドンタクシーは現地では通称ブラックキャブと言われ、ロンドン市公認のタクシー専用車である。

PHOTO:ロンドンタクシーFX4

黒塗りで天井の高いその姿はロンドンのアイコンであり、トップハットが良く似合う。

BAM館長の土橋が最初にロンドンに降り立った時に、一番頼りになった相棒がこのロンドンタクシーであった。たった一言、行先を告げれば正確に最短距離で自分を運んでくれる。

それもそのはず、ブラックキャブのドライバー資格を得るためにはノリッジ 「Knowledge of London」  という難度の高い試験に合格しなければいけない。試験ではロンドンのストリートに関するあらゆる「知識」を持つことが要求され、目的地の最短ルートや建物の特徴を頭の中に入れる必要がある。

PHOTO: ロンドンタクシーFX3 ライセンスプレート

ロンドンタクシーの歴史は古く、前身は辻馬車である。それゆえ、馬車の名残りが随所にみられる。辻馬車はハックニーキャリッジと言われ、スチュワート朝のチャールズ2世の17世紀に遡る。当初は4輪2頭立て6人乗りであったが、1834年になって2輪1頭立てのハンサムキャブ(handsome cab)が作られた。

このキャブは2人もしくは3人乗りで、シャーロックホームズ物語において、ホームズが事件を解決する際にhandsomeとして度々、登場する。

ロンドンタクシーの原形となった馬車。

PHOTO: Victorian Child’s Carriage (BAM所蔵)

ビクトリア時代に貴族の子供のために作られた馬車。ライトにはガス灯が使われていた。

イギリスにおいて、動力が、馬からエンジンに代わって、自動車でのタクシー営業が行われるようになったのは20世紀初頭である。辻馬車を指す語「ハックニーキャリッジ」はそのままタクシーを指す言葉として使われた。

当時の辻馬車のドライバーは御者と呼ばれ、鞭をいれて馬を動かす訳だから運転席と客室はセパレートされていた。このコンパートメントの分断は現在のロンドンタクシーにも引き継がれ、ガラスやプラスチックの分厚い板で仕切られている。

PHOTO: LONDON TAXI FX3 1955年製 (BAM 所蔵)

 運転席のシートと客席はガラスでセパレートされている。

ロンドンタクシーのデザインの変遷

1940年代に登場したオースチンのロンドンタクシーFX3は、助手席にはドアがなく、トランクなどの荷物置き場となっていた。その壁にはポールが渡されていて、ここにトランクを積んでしっかりと括り付けることができる。現在、ロンドンで助手席にお客さんを乗せないのはその名残でもある。また、運転席はかなり狭く、シートのリクライニングは一切できない。一方、客席はかなり広く、対面式でハットを被ったまま、5人は乗り込むことができ、扉の開閉は観音開きである。

PHOTO: LONDON TAXI FX3 1955年製 (BAM 所蔵)

PHOTO: 70年前のロンドンタクシーFX3 

助手席には扉はなく、トランク置き場である。

1950年代後半に入ると、モデルチャンジが行われFX4となり、助手席にも扉が付くようになりロンドンタクシーの理想形に近づいた。このデザインは、マイナーチェンジはあったものの40年近くの長きにわたりロンドン市民に愛され続けた。顔付きからボディラインに至るまで完成されており、このFX4の形状が一番好きだというマニアが多い。

PHOTO: LONDON TAXI FX4 AUSTIN 1978年製 (BAM 所蔵)

1980年代になると、ロンドンタクシーFX4をベースにした「Big Ben」が日産ディーゼルや光岡により、日本に輸入された。ただ、輸出モデルであったため、ロンドンタクシーの特徴であるTAXIサインの行燈はついていない。リムジン仕様になっていたため、後部座席にはモケットシートやワインクーラーまで設置され、快適性を重視したラグジュアリー感が溢れるインテリアであった。ちなみに、紳士が山高帽を被ったまま乗れる対面式キャビンであったため、日本の結婚式場では、文金高島田をつけた花嫁さんの送迎に大活躍した。

PHOTO: LONDON TAXI BIG BEN 1993年製 (BAM 所蔵)

ロンドンタクシーはさらに進化をとげ、1999年のTXシリーズになると、観音開きのドアはなく、ドアミラーが採用され、車椅子を入れ込むためのスライダーが装備された。

これは、近年、日本に登場したトヨタのジャパンタクシーのモデルになった。

100年以上前の英国デザインがここに引き継がれていることは驚きである。

PHOTO: LONDON TX2 2000年製 英国ストラトフォードアポンエイボンにて撮影

PHOTO: LONDON TX4 ロンドン パディントンにて撮影

その後、中国のGEELYグループ(吉利控股集団)傘下となり、2018年にはロンドンにて電気自動車のタクシーLEVC TXが導入された現在に至る。

PHOTO:年代別デザインのイラスト。

原型を残しながら時代の流れで少しづつデザイン変わっていくのが分かります。